『アイデアの選び方 アイデアは、つくるより選ぶのが難しい。』
アイデアを大量に出すのは、慣れれば簡単。
すごいアイデアかどうかはともかく、とにかく数を出すのは誰でもできます。
アイデアを出す技術が身についていれば、そんなに難しいことでもないです。
しかし、アイデア作業で一番難しいのは、「アイデアを選択する」こと。
最高の1案を選べないと成功することはないですし、最低の案を選び大きな失敗をすることだってあります。
アイデアは複数案から1案を決めます。
時には、候補は3案かもしれないですが、100案、1000案ということだってある。
その中で、最高の1番のアイデアを決めないといけない。
ひと目みて、「その案が最高の案だ!」と分かることなんてめったにない。
大抵は、判断が難しい案がいくつもあり、どれが1番なのか悩むことが多いです。
とても簡単な話じゃない。
選び方としては、なんとなくコレかなと決めたり、多数決で決めたり、偉い上司の鶴の一声で決めたりすることも多いでしょう。
でも、そんな安易な決め方では、最高の1案は決めれない。
凡庸な案だったり、マヌケなことに最低の案を選ぶことだってある。
決め方には、きちんとした技術があり、それがないと失敗する。
そこで、最高の1案を決めるためのアイデアを選択する技術が身につく本が、今回紹介する『アイデアの選び方』です。
『アイデアの選び方』とは
著者は、大手広告会社のクリエイティブ・ディレクターを勤めた佐藤達郎氏。
クリエイティブ・ディレクターの主要な仕事のひとつは「選んで決める」こと。
部下が考えた何百というコピーやアイデアを選んで決めてきた経験などから、「アイデアの選び方」の方法論を構築する。
アイデアを作るための本が多い中、「アイデアを選び・決める」という点に焦点をおいた本となっています。
目次
はじめに アイデアを正しく選んで、良い企画を実行しよう!
第1章 なぜ、アイデアを“選ぶ・決める”技術が必要なのか?
第2章 アイデアを“選ぶ・決める”ための6つのステップ
第3章 アイデアを“選ぶ・決める”ための8つのテクニック
第4章 アイデアを“選んで・決める”人に大切な考え方。“つくる・出す”人も、参考に
第5章 ネーミング、デザイン、イベント企画
第6章 人生の、毎日の、様々なシーンで。こんなことにも使える“選んで・決める”技術
おわりに あなたの毎日に、素敵な選択と決定を!
アイデアの選ぶためのの6つのステップ
著者が紹介しているアイデアの選び方は、6つのステップとなっています。
ステップ1 まずは、A4用紙1枚に1案を書く、ことから
ステップ2 そして第一次予選! 机にA4用紙を並べて、粗選りを始める
ステップ3 壁に貼って、方向性ごとに分ける。方向性の名前も貼る
ステップ4 入れ替える。方向性の分類そのものも、変える
ステップ5 方向性ごとの一等賞を決めていく。全部で3案に絞る
ステップ6 最後の最後、1案に決める時は、感覚も総動員して
このように、やり方自体はとてもシンプルです。
大雑把にいうと、A4用紙1枚に1案ずつ書いて、それを壁にはって、みんなで話し合いながら各案のランキングを移動させ、案の1番を決めるという方法。
私もデザインの仕事で、複数案のどれにしようか選択によく迷います。
そこで、このやり方で、いいな~と思うポイントをあげてみます。
まず、「方向性」を分けて考えるという点。
案1つを1つとしてバラバラに考えるのでなく、似たような方向性の案を1つのグループとする。
例えば、ビールのCMのアイデアを選ぶケースですと、「ビールを気持ちよさそうに飲む」「ビールのある幸せな生活をみせる」「ビールの特徴をアピールする」といった方向性のCMが考えられます。案そのものの良し悪しを決めることも大事ですが、方向性も重要な検討要素。
次に、「徹底的に話し合う」こと。
基本的には、人と話し合っての選択の形式になっています(1人だと自分との会話になると思いますが)。
いろんな意見をとことん出し合って、1つの案について考えたり、ランキングを考えたり、方向性について考えたりしていきます。
もちろん、上司の意見がどうとか、悪い点が1つあるからもうダメだとか、そんな安易な話し合いではありません。
話し合いを、徹底的につくすことで、アイデアの選択が精査され、最高の案を選べるようになっていきます。
(話し合いの具体的な方法は、テクニックの章で紹介しています)
最後に、「ランキングをいれかえる」ということ。
普通は、アイデアを選択しようとすると、いきなり1番を考えようとします。
しかし、いきなり1番を考えるのは、けっこう大変だったりします。う~~~~~~~~ん、といきなり止まることも。特に案の数が多ければ多いほど大変に。
そこで、1番以外のランキングを入れ替えることで気が楽になりますし、簡単なとこから始めることで考えるポイントがわかっていき、じょじょに検討スピードもあがっていきます。
当たり前なようで、以外と盲点なやり方ですね。
他にもよいポイントはありますが、このへんが特にポイントだと思います。
シンプルなようで、けっこう奥の深いやり方です。
アイデアの選ぶための8つのテクニック
テクニック(1) このアイデアの根本は何かを、言葉にしてみる。
テクニック(2) このアイデアの良いところは何かを、言葉にしてみる。
テクニック(3) このアイデアのダメなところは何かを、言葉にしてみる。
テクニック(4) 外資のPros & Cons という考え方。ポジとネガ。
テクニック(5) 戦略コンサルのMECE(ミッシー)も、ゆる~く参考に。
テクニック(6) まず、理屈で分けて、理屈で絞る。数案に。
テクニック(7) そして、最後は、感覚で。感覚の中には、言語化しきれない理由が含まれている。
テクニック(8) アイデア開発の全体像は、理屈で下地→感覚でジャンプ→理屈で選択→感覚で決定
本書では、このような8つのテクニックを紹介しています。
先のステップと共に、このテクニックを活用することが大切になってきます。
個人的に、いいな~と思ったポイントをいくつか。
まず、「言葉にする」ということ。
この本では、言葉にすることの大切さを強く訴えています。
テクニックの1~4なんて特にそうですね。
「それは何か?」「良い点、悪い点はどこか?」。それを徹底に言葉にする。もちろん1人でなく、個別の視点がある皆で言葉をつくすことで選択が進む。
聞けば、そんなの当たり前だろうと思われるが、言葉にするというのはけっこう難しい。そもそも、それは何なのか?を説明するのは難しかったりする。良い点を1つ2つあげるのは簡単だけど、5、10あげるのは難しかったりする。できそうで、できない技術。
特に、言葉にするのが難しいデザインの仕事をしてるので、それがよくわかる。
そして、テクニック4の「ポジとネガ」という考え方。
良い点は、悪い点にもなる。絶対的に良い、悪いというものはないということ。
例えば、「年配の人にウケがいい」という良い点は、逆に考えると「若者になじみがなさそう」という悪い点にもなる。
大事なのは、悪い点が一切ない案を探すのではなく、悪い点を理解しつつ最高の案を選ぶという考え方。
個人的には、けっこう衝撃を受けたところです。
選ぶ時って、どこか完璧に良いものを探しがちですよね。でも、そんなものって無い。無いのに無理に探し苦しくなり、選択が難しくなる。ここを理解して楽になりましたね。
あとは、「理屈で考え、ラストは感性」というところ。
とにかく理屈で考え、理屈で考え、とことん理屈で考えまくって、ラストは感性頼み。
理屈だけで考えてもダメだし、感性だけで考えてもダメ。
私もデザインの仕事をしていて、しみじみそれが理解できます。
デザインの仕事って感性が全てのように思われますけど、けっこう理屈も大事。理屈で考えまくるから、デザイン力や感性が鍛えられるところがありますし。
この「理屈で考え、ラストは感性」というのは、アート的なことだけじゃなく、もちろんビジネスでも大事でしょうね。
最近たまたま読んだ『なぜ、マネジメントが壁に突き当たるのか』(著:田坂広志)というマネジメントの本でも、論理をつくした先の直感力の大切さについて書かれていました。この本は見かたによっては「選び方」について書かれた本ともいえ、不思議なことに『アイデアの選び方』をより深く解説したような本に思えます。『アイデアの選び方』を読まれた方は、こちらもオススメ。
これらは、当たり前のようなテクニックと思われますけど、実行が難しい。
また、その本当の意味を理解していなかったりする。
本質ついているテクニックですね。
その他
先のステップとテクニックが主ですが、他には「なぜ選ぶ技術が必要なのか?」「大切な考え方」「実際のケースを元にした具体例」「仕事以外の部分でも選び方を応用する」といった内容が掲載されています。
「実際のケースを元にした具体例」は、ボランティア情報サービスのネーミングの選考を物語形式で説明されていて、著者の選び方の方法について理解が進むと思います。
実際は方法の通りというわけでなく、状況にあわせて方法を少し変えているのがリアリティありますね。
「仕事以外の部分でも選び方を応用する」ところでは、旅行や学生の就職先、キャリア、自分の住むマンションや、子供の教育といったいろんな場面での応用例が書かれています。
確かに、選ぶ技術なのですから、身につけたらどこでも応用できますね。
おわり
私はデザインの仕事もしていますが、経験上のなんとなくな選び方がありました。
誰から教わることもなく、このやり方で本当に大丈夫かな?と試行錯誤で進めていましたが、この本の選び方の技術をみて、具体的な技術として明確になった感じがします。
自分がなんとなく思っていたことが、上手く言語化されていたのでスッキリしました。
また、新たな手法がわかったことで、得るものが大きかったです。
著者の方法は、安易なテクニックというのではなく、選び方の「基本的な技術」というのが強い印象ですね。
知りたかった基本がこの本にはあると思います。
「選ぶ技術がまだない」という方には、強くおすすめします。
出典:佐藤達郎『アイデアの選び方 アイデアは、つくるより選ぶのが難しい。』(阪急コミュニケーションズ、2012年)