アイデアを出すのは、苦しい。
アイデア発想法はいろいろあるが、あるからといってアイデアがどんどん出るわけじゃないです。結局は、1つのアイデアを出すのに、う~んう~んと唸って、時間をかけてやっと絞り出す。そして、出たといっても、大したアイデアでなかったりする。
何の効果もなさそうなアイデアだったり、どこかで見たようなアイデア。
もちろん、上司にはボツ!とアッサリ却下される。
そして再び、う~んう~んう~んう~んと唸って絞り出す。
アイデアを出すのは、どんどんストレスがたまる作業で、先の見えない恐ろしい作業ともいえます。ヒドい場合には、うつ病などになるほど(漫画家で、たまにいましたね)。
特に、アイデアが重要な仕事をしている人は、それに近い体験をしていることでしょう。
そんな時に、人はこう思う。
「もっと楽に、速く、大量のアイデアを出せたらな~」と。
そして、それが実現できるのが、今回紹介する『むげんアイデアのつくり方』。
『むげんアイデアのつくり方』とは
『むげんアイデアのつくり方』は、アイデア発想法の本です。
著者は、株式会社バンダイでおもちゃのアイデアを考えている高橋晋平氏。
バンダイに入社して、始めは自分をアイデアマンだと思っていましたが、あっさりと挫折。
アイデアを考えることに苦悩し、体を壊したそうです。
そして、ひょんなことからアイデアを考える方法をみつけ、そこから自身のアイデア発想法を確立していき、ヒットとなるおもちゃ商品を生み出していったそうです。
この本は、自身の考えたアイデアのつくり方を、紹介した本となります。
「しりとり」でアイデアを考える
高橋氏の考えたアイデアの発想法とは、言ってしまえばとても簡単。
「しりとり」を使ってアイデアを考える方法です。
基本的なやり方は、こんな感じ。
適当なワードを出して、そのワードから連想してアイデアを出す。
そして、出したワードから「しりとり」をして、次のワードを出す。
同じように、そのワードから連想してアイデアを出す。
それを繰り返す。
そして、一定の数を出したら、その中から良さそうなアイデアを選択する。
それだけです。
例えば、「新しいボールペン」というお題で考えてみると…
「りんご」=りんごの香りがするボールペン
「ゴリラ」=ゴリラが踏んでも壊れないボールペン
「ラッパ」=笛になるボールペン/楽器になるボールペン
「パラダイス」=ボタンを押すと「うひょー」と叫ぶボールペン
「スィーツ」=ペンでなくお菓子がでてくるボールペン(隠れて食べる)
「つまらない男」=ダサくてかっこ悪いボールペン(ダサさの流行をつくる)
「米」=米に字がかけるボールペン(細さアピール)
「メデューサ」=視力を鍛えることのできるボールペン
「三人」=他人と協力しないと書けないボールペン(また恋人同士)
「忍法」=手品もできるボールペン
といった感じになります。
このようにランダムなワードから連想をし、アイデアを考えていく方法です。
(この中だと「手品のできるボールペン」って、ありそうでなさそう。実際にあると思うけど、「文具売り場で売る」と売れそうな気が…)
そして、著者の推奨しているプロセスを大雑把にいうと、
100個のアイデアを出し、そこから5個候補を選択し、他人の意見も交え1個を選ぶ。それを10セットやり、最後まで残った10個を審査して、最終アイデア1個を決定する。
そこまでやったら、ヒットをねらえる「最高のアイデア」になるという寸法です。
ちなみに本書では、著者の体験から「連想の仕方」についても、細かく書かれています。
この方法のスゴイところ
初めてこの方法を聞いた時は、これはスゴイ方法だなと感動しました!
まず、この方法がスゴイのは「スピーディに、大量にアイデアを考えることができる」という点。通常は、1つのアイデアを考えるのに時間がかかりますが、この方法を使うと大量のアイデアが短時間で一気に作ることができます。
そして、うんうん唸って苦しみながら考えるのでなく、むしろ何も余計なことを考えないで作ることができる。つまり「ストレスなく、楽にアイデアを考えることができる」という点。
最後は、ランダムなワードから考えるので、「意外性のあるアイデアを考えることができる」という点。通常でしたら、意外性のあるアイデアを考えるのは難しいです。考えようとして考えられるものではない。人が考えるのは、自分が思いつく範囲内のことしか考えれませんから。
このようなメリットのある発想法は、なかなかありません。
ちなみに、昔から「ランダムなワードから連想する」というアイデアの考え方は、ないことはないですが、ランダムとなるワードをわざわざ探すのは意外と面倒。
その点「しりとり」だと、何もなくてもどこでもできる点がいいですね。
そして、その考え方をしっかりとしたプロセスとして、体系化している点が素晴らしいです。
たくさんアイデアを出すということ
人によってはこの話を聞いて、「これは、ただたくさん出してるだけじゃないか。それだと、大した考えもない、つまらないアイデアばかりになるじゃないか。そんなのに意味はあるのか?」と思う人もいるでしょう。
ヒットするアイデアというのは、じっくりと考え抜いて出たアイデアとは限りません。
ちょっと思いつきでヒットした商品は、世の中にたくさんあります。
著者が初めてヒットした商品も、ただの偶然の思いつきでした。
そうした経験などから、著者が行き着いたのは、「とにかく一気に大量のアイデアを出して、そこからヒットしそうなアイデアを拾い出し、さらにそこからアイデアをねっていく」という考え方です。「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」方式ですね。
じっくり考えて、ヒットするアイデアを考えることができるなら、そうすればいいですし、そうでないなら、このような発想法で考える方が楽で簡単です。
アイデアを選択する
もちろん、アイデアは出すだけでは意味がありません。
むしろ、「アイデアを選択すること」の方が大事だったりします。
的確な判断基準で選択したり、他人の意見を聞いて選択することが大切になります。
そのことは、本書でもふれています。
本書では、どんなケースでも共通となるような判断基準をあげていますが、個人的にビビッ!ときた判断基準の一つは、「半歩先のアイデア」を選択するということ。
いいアイデアとは、「一歩先」ではなく「半歩先」をいっているアイデアのこと。
アイデアにおいては一歩先は、行き過ぎていて使いづらいかったりします。
しかし、半歩先は「ありそうでなかった」ぐらいのサジ加減で、そのぐらいのものの方が、お客に受け入れられやすくヒットしやすい。
確かに、そうだなと思いました。
大ヒットしたiPhoneや、フェイスブック、ソーシャルゲームなども、ありそうでなかった商品ですよね。
一歩先でなく、半歩先のヒット商品です。
まとめ
この本と出会って、一番印象深かったのは「アイデアは考えないで作る」という点ですね。
私も仕事がらアイデアをたくさん考える必要がありましたが、毎回根性で作っていました。
それで、アイデアが浮かぶには浮かびますが、すごい疲れます。
気分がいい時は、アイデアがどんどん浮かぶのですが、そうでない時は苦しいですし。
時には、嫌にもなります。
そんな時に、この考え方は救われました。「ああ、そんなに気張らずに考えなくていいんだ」と。
ちなみに、「しりとり」でアイデア考えるというだけでも、けっこう使える発想法ですが、質の高いアイデアを出すための手法はそれだけではないので、具体的な手法は本書をご確認ください。
アイデアが重要な職業の方には必見です!
うんうん唸って発想することに疲れた人は、この発想法を試してみてはいかがでしょうか。
出典:高橋晋平『むげんアイデアのつくり方』(イースト・プレス、2012年)